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世界はうつくしいと

長田弘(おさだひろし)の詩集「世界はうつくしいと」(みすず書房)にある一編の詩。


     「あるアメリカの建築家の肖像」

 家は、永遠ではない。 火のなかに、失われる家がある。

 雨に朽ちて、壊れて、いつか時のなかに、失われてゆく家がある。

 けれども、人びとの心の目には 家の記憶は、鮮明に、はっきりとのこる。

 フランク・ロイド・ライトというアメリカの建築家のことばを覚えている。

 家は、低く、そして小さな家がいい。水平な家がいい。

 地平線のなかにかくれてしまうような家がいい。

 大地を抱えこんでいるような家がいい。

 大方は隅なし。大いなる方形に四隅なし。

 連続する空間が新しく感じられる家がいい。

 風景こそ、すべてだ。 風景という、驚くべき本の中の本。

 体験だけが、唯一、真の読書であるような本。

 そのような美しい本であるような家。

 そうして、明るい日の光の下で、影という影が、淡いすみれ色に変わる家。

 フランク・ロイド・ライトは戦争を憎んだ。 

 戦争はけっして何も解決しない、世界をただ無茶苦茶にするだけだ、と。

 建築家が愛したのは、地球の文法であり、すべての恐竜たちが滅びさった、

 風のほかは、何もない大草原であり、石灰岩の丘であり、

 サグアロ・サボテンと花のほかは、何もない砂漠だった。

 Photo カバー画 カスパー・ダーヴィド・フリードリヒ

                           「墓と柩とミミズクのいる風景」

 

 

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