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田中小実昌

  野見山暁治著「四百字のデッサン」に、野見山の義弟、田中小実昌の飄々とした若い頃の姿が描かれていておもしろい。

  九州から上京してきた野見山の父親が、勝手に家を飛び出した野見山の妹の消息を聞いて激怒し、「いま一緒に棲んでいるテキヤの男(これが田中)とショッピイてこい!」と野見山にがなりたてる。

  野見山は東横線で渋谷へ行き、井の頭線で吉祥寺へ行き、中央線に乗って横田の米軍基地あたりで降り、暗い中を歩き回って、ようやく目指す百姓家を突き止める。

  襖を開けると、狭い畳に田中と妹がいた。 

  野見山 「親父が二人と飲みたいと言っているから来てくれ」

  田中   「おっ、酒が飲めるのか嬉しいな」 

  妹    「アニキもオヤジも勘違いしないでよ!コミは居候なんだからね。毎日毎日出て

        ゆきますと言いながら平気な顔をして、何よ、今すぐ出て行ってよコミッ!」

  田中は下着と歯ブラシを風呂敷に包み、「兄さん、お聞きのようなわけで、私はこれで失礼しますから、お父さんにお伝えください」と深々と頭をさげ、本当に出て行ってしまう。ピッタリと閉められた襖を見ながら、この夜更けにどこで寝るのだろうと、野見山が申し訳なく思っていると、襖が開き、新参者の風情で現れた田中がゆっくり頭をさげ,「あの、今晩ひと晩だけ泊めてちょうだい」と言う。

  結局その夜、3人は電車に乗り、野見山の父親に会いに行くのであるが、家に着くまで妹はカンカンになって怒り、田中のほうは「ああ酒が飲める。え、兄さん、焼酎じゃないんでしょうね、酒でしょうね、ああ久しぶりに酒が飲める」と独りはしゃいでいる。トケオ

  Photo  田中小実昌

 

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